麻生発言――日本のゆがんだ社会保障の発露
ポチです。
数日間、寒い日々が続きましたが、この二日間くらいは暖かな一日でした。
みなさん、お変わりありませんでしょうか?
私のまわりにも風邪ひきさんが何人かいます。今年の風邪は長引くそうです。体調に気をつけてお過ごしください。
さて、今日の話題はコレです。
麻生首相:高齢者医療費「何もしない人の分なぜ払う」
毎日新聞 2008年11月27日 1時23分
麻生太郎首相が20日の経済財政諮問会議で、社会保障費の抑制を巡り「たらたら飲んで、食べて、何もしない人(患者)の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」と発言していたことが26日公開された議事要旨で分かった。高齢者医療費の増大は患者側に原因があると受け取れる発言で、批判も出そうだ。
首相は「67歳、68歳になって同窓会に行くと、よぼよぼしている、医者にやたらにかかっている者がいる」と指摘。「こちらの方がはるかに医療費がかかってない。毎朝歩いたり何かしているからである。私の方が税金は払っている」と述べ、理不尽さを訴えた。
最後に首相は「努力して健康を保った人には何かしてくれるとか、インセンティブ(動機づけ)がないといけない。予防するとごそっと減る」と語った。
首相は19日の全国知事会で「(医師は)社会的常識がかなり欠落している人が多い」と発言し、20日に撤回、陳謝していた。その日に不用意な発言を繰り返していたことになる。(写真は、20日に開かれた経済財政諮問会議であいさつする麻生首相=北海道新聞からお借りしました)
ここで私が言いたいことは2つです。
今朝の「朝日」の記事に民主党の管直人代表代行の「社会保障制度の原理をまったく理解していない。この人に社会保障をまかせることはできない。総理の資格を有していない人だ」というコメントが載っていましたが、1つはこの点です。
基本的には、菅さんの言われるとおりだと思います。麻生さんは、「社会保障」という概念を理解されていないと言うか、たぶん、「社会保障」という概念が頭の中にないのでしょう。
税制とか社会保障負担とかいうのは、所得の再配分です。「所得に応じて拠出しあい、社会全体で一人一人の国民の暮らしを支える」と言うことに他なりません。
健康であろうと病気がちであろうとに関わりなく、相対的に(たぶん「絶対的に」なのでしょうが、麻生さんの所得水準を知らないもので、こう表現させていただきます)所得が高いであろう麻生さんが「私のほうが税金は払っている」のは当たり前のことなのです。それを「理不尽」というわけですから、あきれるばかりです。
そして、2つめ。この点が私が一番言いたい点です。
それは、この社会保障に対するゆがんだ見方は、けっして麻生さんだけの問題ではない、日本社会全体をおおっている社会の現実を反映している問題だということです。
先ほど、「税制や社会保障は所得の再配分だ」と言いましたが、その所得の再配分が世界のなかでも最もうまくいっていない国の一つが日本ではないでしょうか。
以前、何かで読んだことがあるんですが、OECDの調査では、子どものいる世帯の貧困率がOECD加盟国(つまり、いわゆる「先進国」です)の中で最も高いのが日本だそうです。それ自身も大問題なのですが、「再配分」後の貧困率を見ると、他の加盟国はすべて貧困率が低下します。当たり前のことです。所得の多いところから少ないところへ「再配分」するわけですから。
ところが、なんと日本の場合、「再配分」後の貧困率は逆に上がるというのです!
これは言うまでもなく、「再配分」に成功していないということです。
日本の社会保障制度のなかに、「応益負担」という概念が存在します。
「応益負担」、つまり、「利益を得たものが、得た利益に応じて負担するのは当然だ」という考え方です。この考え方が社会保障制度の中に根強くはびこっていることが、「再配分」に成功していない最大の原因なのではないでしょうか。
たとえば、「障害者自立支援法」という法律があります。障害者福祉に「応益負担」を導入した法律です。障害者とその家族の負担は激増してしまいました。障害者施設の経営も深刻な事態になっています。
障害者の方は、福祉サービスがあってはじめて、最低限の社会生活を営むことができます。たとえば、目の不自由な方は、外出介護のガイドヘルパーさんがいてはじめて外出が可能になります。
その福祉サービスは「益」でしょうか?「利益をうけた」と言うのでしょうか?
そして、「利益を受けたのだから負担は当然だ」というのでしょうか?
障害があるがゆえに日常生活に支障があり、福祉サービスをうける、それは、けっして「利益」ではありません。人間としての「生きる権利」です。
それを、「スーパーで大根を買えば、その代金を払うことは当たり前だ」とでも言うような、この「応益負担」という考え方は、社会保障を崩壊させるもの以外の何物でもありません。
そして、この「障害者自立支援法」を導入したのが自民党と公明党であり、たしか、民主党も別の理由でこの法案には反対しましたが、「応益負担」そのものは否定されなかったと思います。
つまり、この「応益負担」という考えに、今、麻生さんに文句を言っている自民党の方々も公明党の方々も、そして、先に引用した批判のコメントを出しておられる菅さんの民主党も立っておられるのです。
麻生発言も、たんに「麻生はアホだ」という問題ではけっしてないと思います。
日本社会を覆う社会保障のゆがんだ存在の発露とでもいうべきなのではないでしょうか。
う~ん。
今、これを打っている最中、テレビの朝のワイドショーで、例の麻生発言が取り上げられていて、それを聞いていたカミさんが、
「『たらたら飲んで、食べて、何もしない人』ってアンタのことじゃないの?アンタのために医療費は払えないってよ~」
と言われてしまいました。
・・・・・・・・。
う~ん・・・・。
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コメント
こんにちは、ポチさん。
たいへんに有益な記事をありがとうございます。さっそく紹介記事を書かせていただきました。
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-999.html
記事を書くためにいろいろ思いをめぐらすうちに、これは麻生首相の個人的な問題ではない、という考えに至りました。日本人全体が「社会保障とはなにか」改めて考え直さなければならないと思います。本来は教育の場でそういう機会があるべきなのですが、教育の場での長い間の無為が日本社会に溜まって、麻生氏の口から噴出したのだと思いました。
投稿: 村野瀬玲奈 | 2008年11月30日 (日) 16時21分
村野瀬さん
コメントと貴ブログでの紹介ありがとうございます。
>これは麻生首相の個人的な問題ではない
まったく同感です。パッと見には「問題なさそう」で、実はとんでもない正体を持つ、
この「応益負担」といういかがわしい言葉にいかに多くの国民が騙され、苦しめられているか!
社会保障の分野から「応益負担」という概念を追放しなければならないと思います。
投稿: pochi | 2008年11月30日 (日) 18時45分